重度歯周病で抜歯宣告された方の治療
1.専⾨性の⾼い予防・治療
今回は重度歯周病でお悩みの患者様のお話です。タイトルにもあるように、患者様は以前通われていた歯科医院(厳密には3つ前の歯科医院)で定期検診を受けていたにもかかわらず歯周病が悪化し、「これ以上の治療は難しい」と紹介状を渡されたそうです。
その後、別の歯科医院(2つ前の歯科医院)で歯周病治療を受けられたものの、多くの歯を抜歯せざるを得なくなり、インプラント治療を希望して転院された歯科医院(1つ前の歯科医院)では、インプラント治療を行うのであれば全ての歯を抜歯するという提案を受けたとのことでした。私が初めて診察させていただいた際、患者様は50代でしたが、抜歯の宣告を受けたのは40代の頃で、ご自身の歯を全て失ってしまうというあまりにもショックな提案を受け入れられず、その後どの歯科医院にも通えなくなってしまわれたそうです。


初診でご来院された際、患者様ご自身も自覚されているように、歯周病の状態はかなり悪化していました。一見すると多くの歯が残っているように見えますが、実際には歯を支える歯周組織(歯ぐきや歯を支える骨)は既に7〜8割が失われており、さらに悪化傾向にありました。
精密検査の結果、日本歯周病学会の分類でいう「Stage4 Grade C」という、最も重症な状態であると診断されました。患者様にできる限りショックを与えないよう、私も言葉を選びながら現状をご説明したところ、動揺を隠せないご様子で、うっすらと涙を浮かべていらっしゃいました。ご自身の歯を失うということは、手や足の指を失うことと変わらないほど大きな苦痛を伴うという報告もあります。何よりも患者様の精神的なご負担が大きいことを考慮し、歯科衛生士と共に初期の歯周病治療を進めながら、時間をかけて患者様へのヒアリングを行い、「本当に全ての歯を抜歯しなければならないのか、「どのような治療の選択肢があるのか」について、じっくりとご相談させていただきました。
その結果、患者様と私たちが共有した治療のゴールは、「どうしても残せる見込みのない歯に関しては抜歯してほしいが、少しでも残せる可能性がある歯に関しては、たとえ可能性が低くてもチャレンジしてほしい」という、ご自身の歯を最大限に残したいという強いご希望でした。さらに、お仕事のご都合上、治療の最終段階だけでなく、治療中も取り外し式の入れ歯は使用したくないというご要望もございました。
数回のカウンセリングを経て、治療計画として、歯を残せる部位には歯周組織再生療法を行い、歯を失った部位には骨造成を伴うインプラント治療を行うことといたしました。また、残す歯は歯周病によって病的な移動や位置異常を起こしていたため、歯の位置と向きを理想的に整え直すことを目指し、部分的な矯正治療と被せ物による補綴修復治療を組み合わせた、総合的な咬合再構成治療を行うこととなりました。

治療に先立ち、仕上がりのイメージをシミュレーションし、患者様と私たちが治療後の状態を共有しながら進めていくことといたしました。
歯周組織再生療法

重症な歯周病の部位に対しては、歯周組織再生療法を実施し、徹底的な歯周病菌の除去と歯周組織の再建を図りました。
インプラント治療

上下の奥歯で保存が困難な部位にはインプラントを埋入し、治療中も食事を楽しんでいただけるよう、歯周病によって弱ってしまったご自身の歯の噛み合わせを支えるための治療用仮歯を作製していきます。
部分矯正

治療用仮歯で噛み合わせを安定させながら、歯周病によって病的に移動した歯を、噛み合わせの力に耐えられる位置まで戻すように、矯正治療で慎重に歯を動かしていきます。
治療用仮歯

インプラントで噛み合わせを回復し、矯正治療で歯並びを整え、再生療法で歯周組織の土台を築き上げたら、全体的なバランスを考慮しながら、患者様が求める美しさ、清掃のしやすさ、そして噛む力によって被せ物や歯周組織に負担がかかりすぎないかなどを、最終的な歯の形に近い仮歯(プロビジョナルレストレーション)で細かくチェックしていきます。
この仮歯を装着した際、患者様が「噛みやすくなったし、見た目も良くなって本当に嬉しい!」と心から喜んでくださったのが、今でも忘れられません。初診から2年以上もの歳月をかけて、決して楽な治療ばかりではなかったため、私も込み上げてくるものがありました。「もうこの仮歯で十分よ!」と仰ってくださるほどでしたが、ここからが腕の見せ所です。さらに長持ちさせるために材料や設計を徹底的に吟味し、患者様のお口に完全にフィットするように、細部まで調整を重ねて、いよいよ最終的な被せ物を製作する段階へと進んでいきます。


患者様のご希望の色調でセラミックの被せ物を製作し、治療を終えることができました。術後のレントゲン検査や歯周病検査の結果からも、歯周病のコントロールは良好で、患者様が望まれたように最大限歯を残すことができました。これもひとえに、患者様のプラークコントロールの徹底と、粘り強く治療にご協力いただいたおかげです。患者様も大変喜んでくださいましたが、担当医である私も、担当した歯科衛生士も、患者様の期待に応える治療ができたことに、歯科医としてこの上ない喜びを感じました。治療最終日は、私の方が喜んでいたかもしれません(笑)。
最後に
現在、治療後3年が経過しましたが、欠かさず定期的なメインテナンスに通院されていることと、丁寧なセルフケアを継続されていることから、トラブルなく良好な状態を維持できています。初診時、つらそうなお顔でお話されていた患者様が、治療が進むにつれて笑顔を取り戻され、会話も増えていく様子を見て、心から安堵いたしました。同時に、何としても患者様のご希望通りに歯を残したいという思いで、心を込めて、そして持てる技術のすべてを注ぎ込んで治療に臨みました。非常に長い治療期間、辛抱強くお付き合いいただき、心から感謝申し上げます。まだお若い患者様ですので、今後もご自身の歯もインプラントも、なるべく長く健康な状態で維持できるよう、共に努めてまいりたいと思います。引き続き、よろしくお願いいたします。
当院には、これまでの歯科治療にご満足いただけなかった患者様や、今回のように辛い経験をされた患者様が多く来院されます。美味しい食事を家族や友人と楽しむこと、美しい歯で自信を持って笑顔を見せることを諦めないでください。患者様お一人おひとりに最適な治療方法は異なります。必ず解決策が見つかるはずです。当院では、お悩みや治療へのご希望を丁寧にお伺いするカウンセリングの時間を設けております。どうぞお気軽にご相談ください。