投稿をご覧いただきありがとうございます。今回は入れ歯でお困りの患者様のお話です。患者様は唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)といって、生まれつき上顎の骨が部分的に無い部分があり、それもあって比較的お若いうちから徐々に歯を無くされ50代には上顎は総入れ歯になってしまわれたそうです。入れ歯を作ってみたものの、思った以上に噛めない・外れる・違和感・痛いetc..など様々なお悩みをずっと抱えながら長い期間過ごされたそうです。入れ歯安定剤(糊のようなタイプ)を使っていないと口を開けると外れてくるので、お話しをしたりする時にも気にしながら不安があり、家族や友人と外食に行かれる際もお食事できるものに大きく違いが出てくることもあり自分だけ違うお食事を取ったりすることもあったそうです。
そこから患者様の歯科医院探しが始まったそうです。しかし骨がない部分があるため、なかなか安定した入れ歯を作ることができずに半ば諦めながら、近所に新しい歯医者ができるたびに入れ歯を持って訪ねられる生活が10年以上あったそうです。どの先生も一生懸命入れ歯を直してくれたり、床をあわせ直してくれたり、新しい入れ歯も3.4個は作られたそうですが大きな改善はなくその頃にはどの歯医者さんでも「う〜ん。難しいですね。」と言われるようになっていたそうです。
それから時間が経ち、ご自身でされていた家業を息子さんに引き継ぎをしてセミリタイヤされたタイミングで当時私が勤務していたクリニックに来院されました。
写真を見ていただくと青色の部分が生まれつき骨がない部分です。その部分だけでなく歯周病に罹患していたことを疑うような全体的な骨の吸収も認めます。残っていた下の歯もグラグラ揺れており、残せる状態ではありませんでした。
患者様からは「仕事も半ば引退して時間もあるし、孫もできてみんなで旅行に行ってみんなと同じ美味しいものを食べたい!先生、何とかならへんかな?」とお話しお伺いしたのは今でも覚えています。患者様の長年のお悩みをなんとしても解消してあげたい。状況を診るに決して簡単な治療ではないのは明らかですが、手段を尽くせば十分にご家族と同じくなんでもお食事とれる入れ歯を作れると私は診断し患者さんとゴールを決めて治療を始めました。治療は入れ歯ですが、インプラントのアタッチメントを併用し入れ歯の維持力を上げて安定させるインプラントオーバーデンチャーで治療することにしました。
まずは残せない歯を抜歯し、お食事に使えるよう下の入れ歯を修理していきます。下顎の骨もかなり吸収していて安定していないので治療途中用の斬間インプラントを使って下顎の入れ歯の安定をはかると同時にインプラントが骨と結合するまでの不安定な時期にインプラントに負担がかからないようにしました。
インプラントが自分の顎の骨と結合する期間を待ってから入れ歯を製作していきます。インプラントがあるからといって噛める入れ歯ができるわけではなく、患者様にあわせた歯のポジションや噛み合わせはもちろん、口の周りの筋肉の動き・舌の動きなどを考慮しなくてはなりません。
専用の型取りをするトレーを製作し、患者様の筋運動を利用した型取りを行なって顎の運動をゴシックアーチという装置で記録を採り噛み合わせの位置を決定していきます。
実際に歯を並べて試適と細かい噛み合わせのチェックと修正をしてから粘膜部分の調整と実際の生活の中で入れ歯の境界線を設定します。
ようやく義歯が完成してきました。口の中で調整とインプラントアタッチメントと接合するパーツを付けたら治療終了です。
トータルの治療期間は抜歯も含めると1年近くかかりましたが、お話する時や大きく口を開けても外れないのはもちろん、なんでもお食事できるようになってこんなのは何十年ぶりだと喜んでらっしゃる患者様からお話をお伺いすると、私も歯科医師として本当に嬉しく思います。参考までにフードテストをしてみました。
お煎餅を割らずに食べれるのは当たり前、リンゴも丸齧りすることができました!
私が歯科医師として理念として掲げている1番のことは患者様を笑顔になっていただくことです。治療途中は辛いタイミングも大変な時もありますが治療が終わった時、治療を受けてよかった!食べれるようになって最高に良かった!と言っていただけることが嬉しいのです。そう思っていただけるよう、研鑽してきた技術を全力で思いを込めて治療を行なっております。今回の紹介させていただいた患者様は難しいケースなので特にですが、ご覧の通り1つ1つのステップを踏んで丁寧に治療を進めるため時間や回数がかかることもあります。治療の回数や期間など、患者様のご都合をお聞きした上でなるべくご負担を減らす考慮は最大限しておりますが手抜きをしてしまうと治療の結果にも繋がりますし、何より患者様のお身体や健康に直接関係することなので妥協できないことも多いのです。その分、治療後なるべく健康に長持ちするように努めております。治療終了後はインプラント部と入れ歯のメンテナンスへと移行して長く使えるようにお手入れしております。
患者様と歯科医院は御縁の下、成り立っていると思います。お困りの方、お悩みの方、必ずいい方法はあるはずです。ぜひ当院でご相談ください。お力になれることは多いと思います。入れ歯にお困りの方は無料相談も行なっております。
監修者情報
院長 高橋貴啓(たかはしたかひろ)
経歴
- 2010年 大阪歯科大学歯学部 卒業
- 2011年 大阪歯科大学附属病院口腔外科第2講座 入局
- 2014年〜 兵庫・大阪の開業医勤務
- 2025年 岸和田おとなこども歯科 開院