前医で全ての歯を抜いて治療すると言われた重度歯周病の患者様

投稿をご覧いただきありがとうございます。今回は重度歯周病の患者様のお話です。タイトルにもありますように前医(厳密には前々々医)で定期検診を受けていたものの歯周病が悪化して、これ以上の治療は難しいと紹介を受けて、前々医で歯周病治療を受けておられましたが、多くの歯の抜歯を余儀なくされ、インプラント治療のため転院された前医でインプラントをするのであれば、全ての歯を抜歯してインプラントをする提案を受けたそうです。私が診させていただいた時は50代でしたが、抜歯の宣告を受けたのはまだ40代で自分の歯を全て失うという、あまりにショックすぎる提案を受けいることができずにどの歯科医院も行くことができなくなってしまったそうです。

歯周病について⇨50代からの歯科治療 〜歯周病と咬合崩壊〜 参照

初診で来られた時には、ご自身でも理解してらっしゃる様子で歯周病の状態もかなり悪くなっていました。まだ多く歯は残っているように見えますがその反面、歯を支えている歯周組織(歯ぐきや歯を支えている骨)はすでに7・8割を失っており、さらに増悪傾向でした。

精密検査の結果、日本歯周病学会の分類でいうStage4 Grade Cという最も重症な分類と評価されていました。なるべくショックを与えないようにと私も言葉を選びながら状況の説明をしたのですが、患者様は動揺を隠しきれずにうっすらと涙を浮かべておられました。当然自分の歯がなくなるということは、手や足の指が無くなるのと何ら変わらないという報告もあります。何より患者様の精神的な負担は強く、衛生士と共に初期の歯周病治療を行いながらお時間をとりながら少しずつ患者様へのヒアリングを行いながら本当に全ての歯を抜かなければいけないのかどうか?どういった治療の選択肢があるのかを相談していきました。患者様と私たちで決めたゴールとしてはどうしても残せるチャンスがない歯に関しては抜いて欲しい、残せる望みがある歯に関しては可能性は低くてもチャレンジして欲しいとご自身の歯を残すことを強く希望されました。さらにお仕事の都合上、治療ゴール時だけでなく治療途中もつけ外しをする入れ歯は使いたくないということも要望がありました。

数回のカウンセリングののち治療計画として、歯を残す部位は歯周組織再生療法を行い、歯を失った部分に関しては骨の増生を伴うインプラント治療を行うこととしました。残す歯も歯周病による病的な歯の移動・位置異常を起こしていたので歯の位置と向きを理想的に整え直すように部分的な矯正治療と被せ物による補綴修復治療を取り入れた総合的な咬合再構成治療を行うこととなりました。

治療前に仕上がりをシミュレーションして患者様と私たちがゴールのイメージを共有しながら進めていきました。

重症な歯周病の部位には歯周組織再生療法を行い徹底的な歯周病菌の除菌と歯周組織の再建を行いました。

⇨歯を抜かない治療「歯周組織再生療法」の項目へ(準備中)

上下の奥歯の残せない部位に関してはインプラントの埋め入れを行い治療中にもお食事がとれるように、歯周病で弱ったご自身の歯の噛み合わせを支えられるように治療用の仮歯を作っていきます。

治療用の仮歯で噛み合わせを支えながら歯周病によって病的に移動した歯を噛み合わせの力に耐えられる位置まで、元に戻すように矯正治療で歯を慎重に動かしていきます。

インプラントで噛み合わせを回復して矯正治療で歯の位置を戻し、再生療法で歯周組織の環境整備が整ったら全てのバランスをとって尚且つ、患者様の望む審美性と歯ブラシや歯間ブラシが届きやすいか、噛み合わせの力で被せ物や歯周組織が破壊されてしまわないかなどを事前にチェックするために最終に入る歯の形に近い治療用仮歯(プロビジョナルレストレーション)による試験を行います。この歯が入った時点で患者様はすごくお喜びになられて「すごく食べやすくなったし、見た目も良くなってすごく嬉しい!」とおっしゃられてくださったのが印象的でした。ここまで治療を進めるのに初診から2年以上を費やしているので決して負担の軽い治療ばかりではなかったので私も感極まる思いでした。「もうこれ(仮歯)でいいわ!」と言われるくらいでしたがここからさらに長持ちするよう材料や設計を煮詰めて、患者様ご自身に馴染むように細かな調整と反応を見ていよいよ最終の被せ物を製作していくステップに移ります。

患者様の希望された色合いのセラミックで被せ物を製作して治療を終えることができました。術後のレントゲンや歯周病検査からも歯周病のコントロールは良好で患者様の希望されたように最大限歯を残すことができました。患者様のプラークコントロールや粘り強く治療にもお付き合い頂いたおかげでこのような結果を出すことができました。患者様もたいそうお喜びになられていましたが、担当医である私も担当した衛生士さんもみんなしてここまで患者様の期待に応えられる治療ができたことに歯医者冥利に尽きる思いでした。治療最終日は私の方が喜んでいたかもしれません(笑)

最後に

現在治療後3年経過していますが、欠かさずメインテナンスにも通院していることとご自身のセルフケアの丁寧さからトラブルなく病気の進行もなく経過しております。初診時、お辛そうな表情でお話しをお伺いした時と比べて治療が進むにつれ口数も増え、表情も明るくなっていくことに安心しました。同時に何としても患者様の希望されるように歯を残すことができるよう、心をこめた治療と結果を出すために全身全霊で挑みました。非常に長い治療期間に辛抱強くお付き合いいただき感謝と共にまだご年齢もお若いので引き続きなるべく長く、ご自身の歯もインプラントも長持ちしていくよう一緒に努めてまいります。引き続きよろしくお願いいたします。

当院では今までの歯科治療に満足いかなかった患者様や今回のように辛い思いをされた方も多く来院されます。美味しいごはんをみんなで楽しむこと、綺麗な歯でお話しや笑顔を見せることを諦めないでください。患者様ひとりひとり最善の治療方法は違います。必ず解決できる良い方法はあるはずです。当院ではお悩みや治療の希望をお伺いする相談の時間をとっております。どうかお気軽にお声がけください。

監修者情報

院長 高橋貴啓(たかはしたかひろ)

経歴

  • 2010年 大阪歯科大学歯学部 卒業
  • 2011年 大阪歯科大学附属病院口腔外科第2講座 入局
  • 2014年〜 兵庫・大阪の開業医勤務
  • 2025年 岸和田おとなこども歯科 開院

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